地の内臓 Organs of the land(2025)

地の内臓(2025)
インスタレーション

 私たちは「地球という大きな身体」の上に存在している。プレートは年間数センチメートルというわずかな速度で移動し続けているが、その運動を日常の中で意識し続けることは容易ではない。しかし、地震が頻発する日本においては、大地が動くという感覚が定期的に私たちの身体に襲いかかる。静かに見える地面が、突如として激しく揺れる。その瞬間、私たちは大地という地球の「皮膚」に触れていること、そしてその奥でうごめく「何か」の存在を、否応なく実感させられる。

 このような身体感覚——すなわち、自分の身体の外側に、さらに大きな「身体」が存在するという知覚——は、日本文化における主客一体の世界観と深く結びついている。プレートの裂け目に位置し、地震という現象と長く共生してきたこの列島だからこそ、人間と自然は対立する存在ではなく、互いの輪郭を溶かし合いながら共にあるという感受性が育まれてきたのかもしれない。

 ここで、芸術人類学者・石倉敏明が提唱する「外臓」という概念に触れたい。人間の身体はしばしば一本のチューブとして例えられるが、石倉はこの構造を拡張し、私たちの内臓が風景と地続きになっているという世界観を提示する。この視点を借りれば、プレートの裂け目もまた、人間の身体における口や肛門のようなものと捉えることができる。すなわち、日本という地理的条件にある私たちは、地球という巨大な身体の「呼吸」や「蠕動(ぜんどう)」に、直接的に晒されているのである。

 本企画では、「内臓、そして外臓としての人間」を描き出すことを試みる。展示は民家の一室を舞台とし、三点のアニメーションによるインスタレーションとして構成される。アニメーションに描かれるイメージには明確なスケール感がなく、ときに広大な風景のようにも、小さな生物の内部構造のようにも見える。ミクロ即マクロというスケール感の変動は、私たち自身が巨大な身体にとっての「内臓」であり、同時に微小な身体にとっての「外臓」でもある——という両義的な在り方を描き出す。

 アニメーションは、人間にとって非現実的な身体の運動に、現実感を与えることができる。私たちに「そこに在る」という存在の確信をもたらすのだ。本作では、そうした映像が、身体の表皮を思わせる等身大のスクリーンに投影される。スクリーンは、来場者の動きや窓の隙間から入り込む空気の流れによってゆっくりと膨らみ、しぼみ、まるで呼吸しているかのように脈動する。その揺らぎによって、有機的なふるまいが空間に立ち現れていく。

 本作の展示場所として民家という場を選んだのは、空間全体を身体そのものとして生々しく立ち上げるためである。民家の壁や床、天井は、人間の身体を包む皮膚や骨格のように働き、鑑賞者を包み込む。映像、物質、空間が一体となり、全存在における「臓器としての人間」の姿を強調する。

川畑那奈 個展「地の内臓」
会期:2025年9月1日(月)-9月7日(日)
時間:14:00-20:00(最終日19:30)
会場:飯島商店 2階
支援:カンセイ・ド・アシヤ文化財団、令和 7年度文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業

Organs of the land(2025)
Installation
KAWABATA Nana Solo Exhibition -Organs of the land-
Dates: Monday, September 1 – Sunday, September 7, 2025
Hours: 14;00-20:00 (19:30 on the last day)
Venue: Iijima Shouten 2F
Support: Cultural Foundation Kansei de Ashiya, Project to Support Emerging Media Arts Creators, 2025

受賞
2025 SICF26 山城大督賞(日本)

展示
2025 川畑那奈 個展「地の内臓」(神奈川、飯島商店)
2025 SICF26(東京、スパイラル)

AWARDS
2025 SICF26 DAISUKE YAMASHIRO Award(Japan)

EXHIBITIONS
2025 SICF26(Tokyo、SPIRAL)
2025 KAWABATA Nana Solo Exhibition -Organs of the land-(Kanagawa, Iijima Shouten)